東京高等裁判所 平成11年(行ケ)424号 判決 2000年10月03日
原告
三浦工業株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
村林隆一
松本司
岩坪哲
弁理士
【B】
【C】
被告
特許庁長官【D】
指定代理人
【E】
【F】
【G】
【H】
主文
特許庁が平成10年審判第18424号事件について平成11年11月1日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和63年8月12日出願の実用新案登録願(実願昭63-107336号)を特許出願に出願変更した特願平5-246253号の一部を分割し、平成5年11月30日、名称を「水管ボイラー」とする発明(後に「水管ボイラー及びその燃焼方法」と補正)についての新たな特許出願としたが(特願平5-329639号)、平成10年10月22日拒絶査定の送達があったので、同年11月19日審判を請求し、平成10年審判第18424号事件として審理されたが、平成11年11月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月22日原告に送達された。
2 本願発明の請求項2に記載の発明(本願第2発明)の要旨
水管壁で画成された一端側にバーナを設け、他端側に排ガス出口を設けてなる燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成し、この水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させることにより、上流側の燃焼ガス温度を抑制して有害燃焼排気物を低減化するようにした水管ボイラー。
3 審決の理由の要点
(1) 引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用した本件出願前に頒布した刊行物である特開昭55-134202号公報(引用例1)には、
「1. 一部分または全部分を水冷壁によって構成した燃焼炉において、上記水冷壁の炉内側部分に水管群を設けたことを特徴とする燃焼炉。」(特許請求の範囲)に関し、
「本発明は上記した従来技術における不具合に鑑みてなされたもので、その目的は、炉内容積の小型化を実現できる燃焼炉を提供することにある。」(1頁右下欄7行~9行)こと、
「以下、本発明の燃焼炉を図に基づいて説明する。第2図および第3図は本発明の一実施例を示す説明図で、ことに第2図は側断面図、第3図は第2図におけるⅠ-Ⅰ断面図である。なおこの第2,3図はバーナ付ボイラの燃焼炉を例示している。これらの図において1は燃焼炉、2はこの燃焼炉に接続した燃焼装置、6は燃焼炉1の内壁を構成する水冷壁、3は燃焼炉1内に配置される蒸発水管である。4は燃焼炉1の内部の上方位置に配置される蒸発ドラム、5は燃焼炉1の内部の下方位置に配置される水ドラムである。上記した水冷壁6および蒸発水管3は、蒸発ドラム4および水ドラム5に連結されている。7は水管群で、水冷壁6の炉内側部分に配置され、燃焼装置2において発生する高温燃焼ガスと接触するようになっており、蒸発ドラム4および水ドラム5に連結してある。なお矢印8は空気を、矢印9は燃焼ガスを示している。」(1頁右下欄13行~2頁左上欄10行)こと、
「このように構成した燃焼炉にあっては、水冷壁6が高温燃焼ガスの輻射熱を受けることにより輻射伝熱が得られ、同時に高温燃焼ガスが水管群7に接触することにより接触伝熱が得られる。」(2頁左上欄11行~14行)こと、
「以上述べたように本発明の燃焼炉は、水冷壁の炉内側部分に水管群を設けてあるので、輻射伝熱とともに接触伝熱が得られ、伝熱面積を小とすることができ、これによって炉内容積の小型化が実現する効果がある。炉内容積の小型化によって燃焼炉の設置空間を少く設定することができる。また炉内容積の小型化は、炉内に導入される燃焼ガスが高温に保持される時間の短縮化を実現し、これによって窒素酸化物の発生を抑制できる効果も奏する。」(2頁左上欄18行~右上欄7行)こと、
が記載され、図面第2図には燃焼炉の縦断面図が、第3図には燃焼炉の横断面図がそれぞれ記載されている。
(2) 引用例2の記載
同じく引用した本件出願前に頒布された刊行物である実公昭39-1002号公報(引用例2)には、
「貫流型重油汽罐において蒸発管群A1の前列中央に下部を給水框Wに上部を蒸気集合框Sに連結する三角柱型支柱兼用火焔分流蒸発管の構造」(実用新案登録請求の範囲)に関し、図面第1図には汽罐の正面図が、第2図には汽罐における蒸発管の配設平面図が記載され、図面の記載を参酌すると、引用例2には、
「バーナーBが噴射する火焔の後流側、すなわち燃焼空間を置いてその後流側の、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に多数本の蒸発管を密に配置した蒸発管群A1を設け、また、蒸発管群A1を構成する蒸発管の下部を給水框Wに、蒸発管の上部を蒸気集合框Sにそれぞれ連結した貫流型重油汽罐」が記載されている。
(3) 対比
本願第2発明と引用例1記載のものとを対比するに、引用例1記載の「蒸発水管3」及び「水管群7」は、その機能に照らして本願第2発明の「水管」に相当する。また、引用例1記載の「水冷壁6」は、水管が炉壁に半分程度埋設されて壁状に構成したもの、及び水管(垂直水管)同士をフィン状部材で連結して壁状に構成したものが示されており、本願第2発明の「水管壁」に相当する。しかも引用例1記載の「燃焼装置2」はバーナを具備するものと認められるから、本願第2発明の「バーナ」に相当し、また引用例1に記載のものは「水管ボイラー」そのものである。さらに、「燃焼ガス」についてみると、「燃焼ガス」とは、「燃料が燃焼したときに生ずる高温のガスをいい、燃焼ガスは、燃料の可燃元素である炭素、水素、硫黄などが完全燃焼して生ずるCO2、H2O、SO2のほかに、供給されたO2のうち燃焼に供されなかった過剰のもの、供給された空気中のN2、燃焼中に最初からあるN2、CO2などの不活性ガス、燃料や空気中の水分などからなる」ものであるから(例えば、【I】著「ボイラの燃料・燃焼工学入門―燃焼編―」燃料及燃焼社昭和57年3月15日発行53頁~55頁、68頁、【J】著「燃焼機器工学」日刊工業新聞社昭和55年10月10日発行22頁、【K】外2名編「ボイラ用語事典」株式会社オ-ム社昭和59年12月10日発行124頁参照)、本願第2発明における「燃焼ガス通路」とは上記した燃焼ガスが流通する通路と認められる。
したがって、本願第2発明と引用例1記載のものとは、
「水管壁で画成された一端側にバーナを設け、他端側に排ガス出口を設けてなる燃焼ガス通路に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成し、この水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させることにより、有害燃焼廃棄物を低減化するようにした水管ボイラー」
の点で一致し、下記相違点(1)、(2)で相違している。
相違点(1)
本願第2発明では、燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成しているのに対し、引用例1記載のものでは、燃焼ガス通路に多数本の水管を密に配置して水管群を形成しているが、燃焼ガス通路のほぼ全域か否か不明である点。
相違点(2)
本願第2発明では、水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させることにより、上流側の燃焼ガス温度を抑制して有害燃焼排気物を低減化するとしているのに対し、引用例1記載のものでは、水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させることにより、燃焼ガスが高温に保持される時間の短縮化を実現して有害燃焼排気物(窒素酸化物)を低減化するとしている点。
(4) 相違点(1)についての審決の判断
引用例2記載のバーナーが噴射する火焔とは、燃焼反応が進行している部分と認められ、火焔の後流側(下流側)は上記したような燃焼ガスの流通する空間と認められるから、引用例2には、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多数本の蒸発管(「水管」に相当)を密に配置して蒸発管群(「水管群」に相当)を形成することが記載されている。
したがって、引用例2記載の事項を参酌すれば、引用例1記載のものにおいて、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成する程度のことは、当業者が容易になし得ることである。
(5) 相違点(2)についての審決の判断
引用例1には、「燃焼ガスが高温に保持される時間の短縮化を実現し、これによって窒素酸化物(有害燃焼排気物)の発生を抑制できる」と記載されており、このことは、燃焼ガス温度を水管群の上流側で早期に抑制して窒素酸化物(有害燃焼排気物)の発生を低減化できる意味と解され、本願第2発明における「上流側の燃焼ガス温度を抑制して有害燃焼排気物を低減化する」と実質的に何ら差異が認められない。
(6) 作用効果についての審決の判断
本願第2発明が奏する作用効果についても、引用例1及び2の記載から容易に予測できたものであって、本願第2発明に格別の作用、効果があるとも認められない。
(7) 原告の主張に対する審決の判断
原告(審判請求人)は、「本願第2発明の第1の特徴は、「燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成し」、つまり、それまでのボイラー業界の常識を破って燃焼室を無くすことによって、上流側の燃焼ガス温度を抑制して有害燃焼排気物を低減化したことにある。」(主張a)、また「本願第2発明では、図1や図3に示すように「バーナーの直近まで水管を密に配置した」ので、高負荷燃焼させても燃焼ガス温度をすぐに1200℃付近まで降下させることができ、しかも、バーナー前面には殆ど燃焼空間が存在しないので燃焼ガスの移動速度も速く、その結果、格段に低NOX化できたのである。」(主張b)と主張している。
そこで、まず主張aについてみるに、「燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成」する構成と「燃焼室を無くす」構成とは異質のものである。そして、「燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成」する構成についてみると、「燃焼ガス」とは、上記したとおり「燃料が燃焼したときに生ずる高温のガス」をいい、「燃焼ガス通路」とはこのような燃焼ガスが流通する通路を意味することは上記したとおりであって、「燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成」する構成は、「相違点(1)についての審決の判断」で述べたように引用例1及び2の記載から容易になし得たものである。また、「燃焼室を無くす」構成についてみると、本願第2発明において「燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成」する構成は構成要件としているが、「燃焼室を無くす」構成は本願第2発明の構成要件としないものであり、この点の主張は本願第2発明の構成に基づかない主張である。そして仮に、「燃焼室を無くす」構成が燃焼のために特別に区画した部屋を設けないという意味であれば、引用例2記載のものも燃焼のために特別に区画した部屋を設けておらず、この点で引用例2記載のものと差異がない。
次いで主張bについてみるに、本願第2発明においては、バーナ火焔(火炎)の後流側(下流側)の燃焼ガスが流通する通路、すなわち燃焼ガス通路のほぼ全域に多数本の水管を密に配置すること、を構成要件とするものである。しかしながらバーナには、表面燃焼バーナのように火焔(火炎)の短いものから拡散燃焼バーナのように火焔(火炎)の非常に長いものまで種々存在することは従来周知であり(火焔(火炎)の長い例として原告が審判甲第3号証として提出した【L】外1名著「汽罐取扱いの実際」産業図書株式会社昭和30年11月15日発行60頁参照)、火焔の後流側である燃焼ガスが流通する通路(すなわち、燃焼ガス通路)に多数本の水管を密に配置して水管群を形成し、この水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させる本願第2発明においては、バーナの直近まで水管を配することを構成要件とするものではない。したがって、主張bは本願第2発明の構成に基づく主張とは認められない。
したがって、主張a及び主張bはいずれも採用することができない。
(8) 審決のむすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
第3原告主張の審決取消事由
審決は、本願第2発明の要旨の認定を誤り(取消事由1)、引用例1の認定を誤り(取消事由2)、引用例2の認定を誤り(取消事由3)、その結果審決が認定した相違点の判断を誤った(取消事由4、5)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願第2発明の要旨認定の誤り)
(1) 審決は、本願第2発明の「燃焼ガス」を火炎(火焔)とは異なるものとして区別して「火焔の後流側である燃焼ガス」と認定し、それを前提として「「燃焼室を無くす」構成は本願第2発明の構成要件としない」とし、また「バーナの直近まで水管を配することを構成要件とするものではない」と認定したが、誤りである。
燃焼ガスとは燃焼に伴う反応生成物であり、火炎とは、このような燃焼ガスにおける、可視光領域の発光を伴う状態を意味する。すなわち、物質(反応生成物)である燃焼ガスには、火炎状態の燃焼ガスも含まれるのである。燃焼ガスと火炎はそもそもカテゴリーを異にする(物質と状態)もので、燃焼ガスか火炎かというようにいずれかに選択されるものではない。当業者間では、特に意識することなく「燃焼反応中又は火炎状態の燃焼ガス」も含んだ意味で「燃焼ガス」との用語を用いることが多いのが実情であり、そもそも、引用例1記載のものでも、「燃焼装置2において発生する高温燃焼ガス」(2頁左欄6~7行)との表現によって、「高温燃焼ガス」の用語を「火炎状態の燃焼ガス」の意味で使用しているのであるから、「燃焼ガス」の範疇には「火炎状態のもの」が含まれることは、引用例1からも確認されるのである。
(2) 「燃焼ガス」との用語が「燃焼排ガス」の意味で使用される場合のあることは原告も否定しないが、そもそも本願第2発明における「燃焼ガス」の意味は、本願明細書全体から合目的的に解釈されるべきである。
本願明細書には、従来の水管ボイラーとしては、円筒型をなす水管組立体(段落【0002】に記載)及び角型缶体構造(段落【0003】に記載)のものが記載され、これらのボイラーは、従来型燃焼室を有しており、「バーナの前面に広い空間が存在する」(段落【0006】)ものとなっているため、多量の「サーマルNOXが発生」(段落【0006】)するとの記載がある。
本願第2発明は、サーマルNOXの低減化とそれに伴い発生するCOの低減化、すなわち有害燃焼排気物の低減化を主たる目的としてなされたもので、段落【0020】には「上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても燃焼ガス温度が低く抑えられ、NOX特にthermalNOXの発生が防止でき、しかも上流側においても燃焼ガス温度が1200℃程度であるため、COが発生していても上流側でCO2に酸化されてしまい」と記載されている。燃焼ガス(火炎)温度を1700K以下(1500℃以下という文献もある。)としてNOXの生成をほとんど抑えることができるという周知のサーマルNOX低減の原理に照らし合わせると、サーマルNOXの発生を防止しているということは、上流側の水管群により、燃焼ガス(火炎)を冷却していることを意味するとともに、1700K以上の高温の領域がほとんどないままで、どこかで燃焼が起きていることを意味している。それは、上流側の水管群の領域において燃焼反応が行われていることにほかならない。また、COは、NOXの発生を防止するために上流側の水管群により燃焼ガス(火炎)を冷却することにより発生しており、そのことは、燃焼ガスが、燃焼反応中であることを意味するのであり、さらに、上流側の水管群中にてCOが酸化してCO2になるのであるから、上流側の水管群中にて燃焼反応が行われていることを意味するのである。
したがって、これら記載から「従来型燃焼室は存在せず、燃焼ガス通路のほぼ全域に水管群を形成し、この水管群中にて燃焼反応を行わせている」という本願第2発明の本質的特徴を明確に読み取ることができ、「NOXは従来のものに比べて1/3から1/2まで低減し、またCOは、十数ppm以下までに低減する」との本願明細書記載の作用効果(段落【0021】)を奏するのである。
しかも、本願明細書には、サーマルNOXの低減方法として、バーナ炎を水冷壁に当てる技術(実公昭56-47477号公報)や、過剰濃度の混合気を燃焼させたりして燃焼温度を調整する技術(特公昭56-46046号公報)」、及び、バーナ近傍の冷物体によって燃焼ガス温度を調整する低公害技術(特開昭60-78247号公報(本訴の甲第22号証))を先行技術として明記し、「バーナ炎の冷却」や「燃焼温度の調整」によってNOXの抑制を図る原理を紹介しているのであるから、本願明細書において、特にこれらと異なる別の低NOX化の原理を説明していない以上は、本願第2発明でも、燃焼温度や火炎温度を低くすることでNOXの抑制を実現していると解されるべきであるし、特開昭60-78247号公報では「冷物体(フィン群3)」付近の「燃焼ガス」を「火焔」と称しているのであるから、この先行技術の内容を踏まえて明細書を作成しようとする場合、用法を統一させる意味でも、「火炎状態の燃焼ガス」も含んで「燃焼ガス」の用語を使用するのはむしろ当然である。
したがって、本願第2発明の構成要件である「燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成」とは、「燃焼室を無くす」構成及び、「バーナの直近まで水管を配すること」と異ならず、これに反する審決の認定は誤りである。
2 取消事由2(引用例1の認定の誤り)
審決は、引用例1記載のものについて「燃焼ガス通路のほぼ全域か否かが不明である。」とし、「水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させることにより、燃焼ガスが高温に保持させる時間の短縮化を実現して有害燃焼排気物(窒素酸化物)を低減化するとしている」と認定している。しかしながら、前者は「燃焼ガス通路の約半分の下流側通路には、水管群が配置されている」と認定されるべきであり、後者については、引用例1記載のものは「高温域での燃焼ガス温度の滞留時間を短くする方法」を採用しているのであるから、低NOX化の効果も異なる。
3 取消事由3(引用例2の認定の誤り)
審決は引用例2について「バーナーBが噴射する火焔の後流側、すなわち燃焼空間を置いてその後流側の、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に多数本の蒸発管を密に配置した蒸発管群A1を設け」と認定しているが、正確には「バーナーBと蒸発管群A1との間に比較的広い燃焼空間(従来型燃焼室)を置いてその後流側の火焔状態の燃焼ガスが流通するガス通路のほぼ全域に多数本の蒸発管を密に配置した蒸発管群A1を設け」とすべきである。
4 取消事由4(相違点(1)の判断の誤り)
引用例2に「本考案の三角柱型支柱兼用火焔分流蒸発管は貫流型重油気罐の蒸発管を加熱するバーナーから噴射される火焔の中心が蒸発管群の前列中央部に当り、・・・加熱を平等に近くして熱効率を向上することを目的とするものである。」(1頁左欄15~22行)と記載があるように、引用例2に記載のものは「加熱を平等に近くして熱効率を向上すること」を目的としており、本願第2発明のように、有害燃焼排気物を低減化することを目的とするものではなく、技術的課題に類似性も共通性も存在しない。しかも、課題解決手段としての相違点(1)に係る構成についても、引用例2に記載のものがこれを具備しないことは、従来型燃焼室を備えたものとして引用例1に記載のものと同様であるから、引用例2に記載のものと本願第2発明には技術的課題に関連性がないことを仮に度外視したとしても、燃焼室を備える引用例2に記載のものからは、相違点(1)に係る本願第2発明の構成は想到し得ない。
5 取消事由5(相違点(2)の判断の誤り)
本願第2発明の手法は、NOXを全く発生させないことを意図したいわば源流側の対策であり、一方、引用例1に記載の発明の手法は、源流側から流れてきた高温燃焼ガスに対する対処療法的な対策にすぎず、その源を絶たんとする本願第2発明とはNOXの抑制原理が全く相違するのであり、作用効果、すなわち、NOX低減及び小型化の効果は格段に異なる。
第4審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して
(1) 燃焼ガスは「燃料が燃焼したときに生ずる高温のガス」であり、火炎は、燃焼反応が気相で起こっている部分で、可燃性物質が空気と反応して燃焼しつつ発光しているものであるから、「燃焼ガス」と火炎とは明確に用語の意味が異なる。そして、火炎の一番外側の部分で燃焼反応が起こっているので、位置的に、燃焼ガスが火炎の後流側となるのは当然のことである。そして、ゼルドビッチ機構によって説明されるサーマルNOXは、火炎後流、すなわち燃焼が起きている場所の後流で生成されるので、サーマルNOX抑制のために上流側の水管群によって冷却されるのは、火炎後流の燃焼ガスである。また、燃焼ガス温度が2000℃以上になると、CO-CO2間の平衡組成として、かなりのCOが発生(熱解離)するので、「COは、NOXの発生を防止するために上流側の水管群により燃焼ガス(火炎)を冷却することにより発生しており、そのことは、燃焼ガスが、燃焼反応中であることを意味する」との原告主張は、これと矛盾する。
サーマルNOX及びCOの抑制という点からみても、「上流側の水管群により、燃焼ガス(火炎)を冷却している」及び「上流側の水管群の領域において燃焼反応が行われている」との原告の主張は失当である。
(2) 仮に、本願第2発明の燃焼ガスが火炎状態のものも含むのであれば、燃焼ガスが、放射による伝熱を起こしていることをうかがわせる記載があるべきなのに、本願明細書にはそのような記載はない。よって、燃焼ガスについて「火炎状態の燃焼ガスも含まれる」とする原告の主張は誤りである。
(3) したがって、「燃焼室を無くす」ことや、「バーナの直近まで水管を密に配置した」ことは、本願第2発明の要旨とする事項ではなく、取消事由1で原告の指摘する審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2に対して
引用例1第3図には、燃焼炉1が指し示され、燃焼ガス9が排気されることは記載されてはいるが、燃焼ガスの定義、及び燃焼ガス通路がどこからどこまでかという燃焼ガス通路の定義を示す記載がないから、審決は「燃焼ガス通路のほぼ全域か否か不明である」としたのであって、そこに誤りはない。
また、「水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させることにより、燃焼ガスが高温に保持させる時間の短縮化を実現して有害燃焼排気物(窒素酸化物)を低減化するとしている」との審決の認定も、引用例1の記載からみて、原告主張の誤りはない。
3 取消事由3に対して
引用例2には、図面の記載を参酌すると、審決認定のように「バーナーBが噴出する火焔の後流側、すなわち燃焼空間を置いてその後流側の、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に多数本の蒸発管を密に配置した蒸発管群A1を設け」ることが明確に記載されているので、審決の引用例2の認定に原告主張の誤りはない。
4 取消事由4に対して
(1) 引用例2は、原告が主張するように「熱効率を向上すること」を目的とするものであって、本願第2発明と引用例1のものも、共に、蒸気が発生するボイラーの熱効率を向上させるものであり、引用例1に記載の技術と引用例2に記載の技術とを組み合わせることを阻害する要因もない。
のみならず、サーマルNOXの低減化という技術的事項でも、引用例1、2に記載のものは共通しており、両者を組み合わせることを阻害する要因は一切ない。すなわち、引用例1には、「炉内に導入される燃焼ガスが高温に保持される時間の短縮化を実現し、これをもって、窒素酸化物の発生を抑制できる」ことが記載され(2頁右上欄4~6行)、さらに、CO-CO2間の平衡生成により生じたCOが、燃焼ガス温度が低くなれば、CO2に酸化するという技術的事項に照らせば、引用例1においても、CO-CO2間の平衡生成により生じたCOがCO2に酸化するものと推定できるのであり、本件出願時において、火炎温度を抑制して低NOX化を図ることが周知であるから(海外技術資料研究所発行「窒素酸化物による大気汚染防止技術」1973年日本語版発行)第1部39頁20~24行(甲第33号証)、特開昭60-78247号公報(甲第22号証)参照。)、引用例2に記載のものにおいても、サーマルNOXの低減化が生じることは、おのずと認識し得る。しかも、上記「窒素酸化物による大気汚染防止技術」には、「ピーク炎温度を下げるという単純な方法でも(後に述べる),NOXを50%減少させることに成功している。」(第1部39頁23~24行)との記載があり、この記載からすると、本件発明の「NOXは従来と比して約1/2に低減」(本願明細書段落【0026】)が格別な効果といえるものではない。
(2) 原告は、「課題解決手段としての相違点(1)に係る構成についても、引用例2がこれを具備しない」というが、引用例2には、火焔の後流側の、燃焼ガスが流通する部分のほぼ全域に多数本の蒸発管を密に配置した蒸発管群A1が設けられることが第2図に記載されているので、原告主張は失当である。
5 取消事由5に対して
引用例1に記載の燃焼ガスは、燃焼ガス通路に配置した水管群によって、早期にかつ直接冷却して燃焼ガス温度が抑制され、「窒素酸化物の発生を抑制できる」(引用例1の2頁右上欄6行)のであるから、有害排気物の抑制原理は、本願第2発明と同じであって、そうである以上、本願第2発明と引用例1のものとは、効果において格別の差異はなく、本願第2発明と引用例1の相違点(2)は、「実質的に何ら差異が認められない。」とした審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1について
(1) 甲第13号証の1~3によれば、【M】著「燃焼」(1976年発行。岩波全書291)の2頁に「火炎は酸化反応のある状態をあらわす言葉であるが、物質としては反応生成物であるから、これを燃焼生成物(combustion products)、燃焼ガス(combustion gas)などとよぶ.」との記載のあること、甲第14号証の1~3によれば、【N】外著「燃焼工学」(昭和60年発行)の161頁に「燃焼ガスを用いる場合、化学反応が支配的な燃焼中のガスを用いるよりは・・・」との記載のあること、甲第15号証の1~3によれば、【I】著「ガスだきボイラーの実務」(昭和61年発行)の31頁に「ガス燃料における燃焼ガスの状態は、当初は火炎(炎)を形成するが次第に炎は消滅する.」との記載があること、甲第17号証の1~3によれば、【O】著「燃焼とエネルギ変換の工学」(昭和62年発行)の75頁に「火炎を含む燃焼ガスは」との記載のあること、甲第22号証によれば、特開昭60-78247号公報の1頁左下欄6~7行ほか多数の箇所に「火焔(燃焼ガス)」との記載があることが、それぞれ認められる。
これらの記載によると、火炎(火焔)及び燃焼ガスの用語が用いられる際には、火炎は燃焼ガスの一状態とされていることが明らかである。「火炎の一番外側の部分で燃焼反応が起こっているのだから、位置的に、燃焼ガスが火炎の後流側となる」との被告の主張は、これら用語の用法と矛盾するものである。
一方、燃焼ガスの用語が燃焼排ガス(火炎を含まない)の意味で使用される場合のあることも原告の否定するところでないので、本願第2発明の要旨における「燃焼ガス」なる用語が火炎を含むのか含まないのかは、その用語自体からは一義的に断定することはできない。
そこで、本願第2発明においていずれの意味において用いられているかにつき、発明の目的、効果との関連などにより、以下、総合的に検討する。
(2) 甲第4号証の1の2及び第4号証の2によれば、本願第2発明は、水管ボイラーにおけるNOX、CO等の有害燃焼排気物の低減化を課題とし、これを解決しようとしたものであると認められるが、この燃焼技術分野におけるNOX、COの低減化に関する知見として、例えば次のものが認められる。
すなわち、甲第22号証によれば、特開昭60-78247号公報に、「本発明に課せられた技術的な課題は燃焼室空間をおかないでバーナにより形成された火焔で熱交換器を加熱し、温水を得ながら排ガス中に残留しているCOを無くする熱交換方法及びその装置を提案することである。」(2頁左上欄末行~右上欄4行)、「高負荷燃焼により発生した火焔(燃焼ガス)の近傍又はこれに接して冷物体を置き、火焔の温度を火焔中のCO2が解離せず、又COの酸化反応の進行する温度すなわち約1,000℃以上、約1,500℃以下に制御する。」(2頁右上欄8~12行)との記載のあることが認められる。
また、乙第13号証によれば、「図解燃焼技術用語辞典」(昭和57年発行)107頁に「サーマルNO thermal NO」の用語解説として「・・・火炎後流で生成されるthermal NO・・・の生成速度は温度、酸素濃度および高温場での滞留時間によって影響を受けるが、特に温度に関しては指数関数的であり約1300℃以上になると急激に増大する.」との記載があることが認められ、これによるとサーマルNOXの生成速度に最も影響を与えるのは温度であると認めることができる。
(3) そして、甲第4号証の1の2及び第4号証の2によれば、本願明細書には、「有害燃焼排気物の低減化対策として、燃焼ガス温度、すなわち燃焼火炎の温度を下げることにより、NOX、とくにサーマルNOX(thermal NOX)の生成を制御する方法並びに燃焼ガス温度を一定の温度範囲に保つことにより、COをCO2に酸化させてCOの残留を阻止する方法が知られている。・・・特開昭60-78247号公報に開示されているように、バーナ近傍の冷体物によって燃焼ガス温度(燃焼火炎の温度)を調整した後、熱交換器までの間の断熱空気内でCOを酸化させるもの等がある。」(段落【0004】)、及び「図中A点で約1200℃、・・・上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても、燃焼ガスの温度が低く抑えられ、NOX、特にthermalNOXの発生が防止でき、しかも上流側においても燃焼ガス温度が1200℃程度であるため、COが発生しても上流側でCO2に酸化されてしまい、以下下流側では徐々に温度が下がるため、CO2が再び分離してCOとなるのも防止できる。」(段落【0020】)との記載のあることが認められる。
甲第4号証の1の2によって認められる本件出願の図1(本判決別紙図面)によると、A点とは水管2列目に当たることが認められ、ここでの温度が約1200℃であるとされていることは、特開昭60-78247号公報の「約1,000℃以上、約1,500℃以下に制御する」との記載と一致し、火炎中のCO2が解離せず、またCOの酸化反応が進行する温度であると同時に、「図解燃焼技術用語辞典」記載のサーマルNOXの生成速度が急激に上昇する温度である約1300℃より下の温度に当たり、有害排気物であるサーマルNOXとCOの発生をいずれも防止することができるものと認められる。前記認定のとおり、特開昭60-78247号公報は本願明細書の段落【0004】において引用されている文献である。そうすると、本願第2発明は、特開昭60-78247号公報に記載の発明を従来技術として、同発明がサーマルNOXの低減をも果たしているという知見を前提として発明されたものということができる。
(4) そうである以上、本件出願図面のA点においては、特開昭60-78247号公報に記載の発明と同様に、「燃焼室空間をおかないでバーナにより形成された火焔で熱交換器を加熱しているもの」、すなわち、A点での燃焼ガスは火炎であると解することができ、本願明細書においては、火炎を含むものとして「燃焼ガス」の用語が用いられていると解するのが相当である。
このことは、本願明細書の「・・・燃焼ガス温度、すなわち、燃焼火炎の温度・・・燃焼ガス温度(燃焼火炎の温度)・・・」(段落【0004】)との、燃焼ガス温度と燃焼火炎の温度を同一視した記載振りとも符号する。
また、甲第33号証によれば、海外技術資料研究所発行「窒素酸化物による大気汚染防止技術」1973年日本語版発行)第1部には、「ピーク炎温度を下げるという単純な方法でも・・・,NOXを50%減少させることに成功している。」(39頁23~24行)との記載のあることが認められ、この記載は、本願明細書が「NOXは、従来のものに比べて1/3から1/2程度まで低減し」(段落【0021】)とするNOXの低減度において一致している。これに対し、「火炎後流の燃焼ガス」を冷却することにより、NOXを従来のものに比べて1/3から1/2程度まで低減することができるとしている文献の存在を示す証拠はない。
したがって、これらの点に照らしても、本願明細書における「燃焼ガス」に関する上記解釈が相当ということができる。
(5) さらに、本願第2発明の要旨自体からも、燃焼ガスが火炎を含むものであることをうかがうことができる。
すなわち、本願第2発明の構成要件には「一端側にバーナを設け、他端側に排ガス出口を設けてなる燃焼ガス通路」及び「上流側の燃焼ガス温度を抑制して有害燃焼排気物を低減化する」との構成があるが、前者の構成は、燃焼ガス通路の一端がバーナであることを明確に記載したものであり、バーナ直後の位置に燃焼ガスが存在する以上、その燃焼ガスは火炎であると解さざるを得ない。また後者の構成中の「燃焼ガス温度を抑制」とは、燃焼ガス温度の上昇を抑えるとの意に解されるが、火炎後流の燃焼ガスについては、温度が上昇する要因のあることは認められないから、「抑制」される対象は火炎温度というほかない。
そうすると、本願第2発明の構成要件の記載も、燃焼ガスが火炎を含むものであることを裏付けるものというべきである。
(6) 被告は、本願第2発明の燃焼ガスが火焔(火炎)状態のものも含むのであれば、燃焼ガスが、放射による伝熱を起こしていることをうかがわせる記載があるべきなのに、本願明細書にはそのような記載はないと主張する。
しかしながら、乙第11号証によれば、社団法人日本ボイラ協会編「ボイラ構造第1巻」(昭和42年発行)に、「物体は熱エネルギを電磁波の形で空間に放射し、・・・全く物質の存在していない真空の空間を隔てた物体間でも放射による伝熱が行なわれる。」(23頁11~13行)と記載されていることが認められ、これによると、火炎部と水管が離隔していて、水管部での燃焼ガスが火炎状態のものを含まないとしても、放射伝熱は行われるのであるから、本願明細書に放射伝熱に関する記載がないからといって、燃焼ガスが火炎状態のものを含まないとすることはできない。
(7) 以上のとおり、本願第2発明における「燃焼ガス」は火炎状態のものを含むと解すべきであり、燃焼ガスは火炎後流のみに存在すると認めることはできない。そうすると、本願第2発明について、「火焔の後流側である燃焼ガスが流通する通路(すなわち、燃焼ガス通路)に多数本の水管を密に配置して水管群を形成し、この水管群に対し交叉方向に燃焼ガスを流通させる」との構成を有するものとした審決の認定は誤りであり、本願第2発明においては、バーナから排ガス出口に至る燃焼ガス通路のほぼ全域に多数本の水管が配置されていることから、バーナの直近まで水管を配していて、燃焼室と称し得る空間は存在しないものというべきである。
したがって、「「燃焼室を無くす」構成は本願第2発明の構成要件としない」との審決の認定部分、及び、本願第2発明は「バーナの直近まで水管を配することを構成要件とするものではない」とした審決の認定部分も誤りである。
2 取消事由4について
審決は、相違点(1)についての判断において「引用例2記載のバーナーが噴射する火焔とは、燃焼反応が進行している部分と認められ、火焔の後流側(下流側)は上記したような燃焼ガスの流通する空間と認められるから、引用例2には、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多数本の蒸発管(「水管」に相当)を密に配置して蒸発管群(「水管群」に相当)を形成することが記載されている。」と認定した。
しかしながら、本願第2発明の「燃焼ガス」が火炎状態を含むものであり、「燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域」が火炎部分を含めて「ほぼ全域」であることは、前記1で説示したとおりである。そうすると、本願第2発明との対比においてみれば、「燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域」であるためには、火炎後流側だけでなく、火炎部分を含めて「ほぼ全域」でなければならないところ、審決が引用例2につき「火焔の後流側(下流側)は上記したような燃焼ガスの流通する空間と認められる」との点を根拠として、「燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多数本の蒸発管(「水管」に相当)を密に配置して」と認定したのは、その前提(火炎部分を含まない点)において誤りがあるというべきである。
そして、甲第3号証によれば、引用例2の第2図には、バーナーBと蒸発管群との間に、逆台形状の空間(燃焼室)が設けられており、その空間には、火炎、すなわち、燃焼ガスが存在すると認められる。
したがって、「引用例2には、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多数本の蒸発管(「水管」に相当)を密に配置して蒸発管群(「水管群」に相当)を形成することが記載されている。」とした審決の認定は誤りである。
審決は、前記認定に基づいて、「したがって、引用例2記載の事項を参酌すれば、引用例1記載のものにおいて、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成する程度のことは、当業者が容易になし得ることである。」と判断したが、引用例2に関する前記認定の誤りがある以上、この判断も是認することができない。
3 取消事由5について
本願第2発明が「上流側の燃焼ガス温度を抑制して有害燃焼排気物を低減化する」ことを要件とし、ここで抑制される対象が火炎温度であることは、取消事由1について判断したとおりである。これに対し、甲第2号証によれば、引用例1には、火炎温度そのものを抑制することについての記載を認めることができない。したがって、「引用例1には、・・・本願第2発明における「上流側の燃焼ガス温度を抑制して有害燃焼排気物を低減化する」と実質的に何ら差異が認められない。」とした審決の判断は誤りであり、これに続く「そして、本願第2発明が奏する作用、効果についても、引用例1及び2の記載から容易に予測できたものであって、本願第2発明に格別の作用、効果があるとも認められない。」との判断も理由を欠くものといわざるを得ない。
第6結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由1、4、5は理由があり、そこにおける審決の認定、判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから、その余の取消事由について判断するまでもなく原告の請求は認容されるべきである。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本英史)
<以下省略>